For designers survive the shooting
デザイナーが、撮影現場でやったほうがいいこと

TWOTONE茂出木です。
僕の仕事は、スクリーンメディア向けのコンテンツの、ディレクション、アートディレクションです。
スクリーンメディア向けのコンテンツというと、UX/UI周りに没頭しているように思われがちですが、実は撮影に割いている時間がそこそこ多かったりします。最近は、撮影ディレクションのみの依頼も多く、お受けしています。
デジタルコンテンツ制作に関わる以上、撮影はとても重要なので、大好きですし、楽しんでやっています。

実際に撮影となると、極力TWOTONEのデザイナーにも現場に入るようにアレンジします(特に経験の浅い子をアサイン)。ところが、いざ当日になると、僕も絵作りやフォトグラファとのコミュニケーションに没頭してしまうので、連れてきたデザイナーへの指示が曖昧になりがちです。
デザイナーにしてみたら、普段やっているデザイン業務を離れて不慣れな上に、放置プレイと散々です。撮影現場のムードに圧倒されたり、手持ち無沙汰になったりします。
たまに「手が空いてるんですが、どうしたらいいですか?」と質問してくる素直なデザイナーもいます。ざっくり言ってしまうと、絵作りに参加しなさいということなんですが、とっかかりを探している人にそんなことを言っても何にもならないので、「周りをよく見て、よく考えて動いて」という回答になります。ざっくりしすぎです。
撮影中ではない、落ち着いている時に、まとめておきたいと思っていたので、今回のZineで綴ってみます。
TWOTONE社内のみならず、スクリーンメディア向けのコンテンツに従事しているデザイナーの参考になる箇所があるんじゃないかと思います。

撮影現場をどう捉えるか

スクリーンメディア用の撮影は、ページ物のエディトリアルデザインに負けず劣らず、カット数が多いです。ウェブサイトはまさしくデジタル上のページ物ですし、マウスインタラクションによって、複数枚の写真を切り替えてみせる演出などを採用すると、更にカット数が増えます。タイムラプスや、コマ撮りとなると、格段に増えます。撮影自体も複雑になっていきますが、いずれにしてもデザイナーに渡されるデータが膨大という点は注意しておくといいでしょう。撮影現場での時間は、その後膨大な量のデータを受け取ってから、スムーズにデザイン作業に入っていくための準備の時間と捉えてもいいと思います。実際に受け取ってから「困った!」なんてことがないように、準備しましょう。

また、撮影現場は、主要関係者がその案件に対して時間を割き、一同に会している特異な時間・場所です。デザインカンプでのプレゼンテーションや、PPMなどの事前打ち合わせで、示し合わせられていない細部を詰めていくにはもってこいの機会です。関係者の考えていることを、互いに出し合って、差異を調整(ないし認識)しておくといいでしょう。

膨大な撮影データをどばっと渡されても困らないために

どの現場にも撮影データを取りまとめている係がいます。フォトグラファのアシスタントであったり、スタジオさんであったり、DITさんだったり、案件や撮影方法によって担当者が異なります。誰が取りまとめていくのか、撮影前に把握&挨拶しておくといいでしょう。

データ取りまとめ係は、通常、撮影した順に、カット毎にフォルダを分けてまとめています。この時、フォルダ名が、撮影順の通し番号になっていることが多いです。

この通し番号がついたフォルダ、現場で見直したりする場合は、非常に有効です。しかし、制作物の掲載順になっているわけではないので、編集時、デザイン時に混乱を招いたりします。例えば、カット1はページCに掲載、カット2はページAの上から2番目に掲載、カット3はページBに掲載、カット4はページEに掲載。という具合に、通し番号とは別の順序に並べ替える行程が入るのです。数枚なら、なんなく整理できますが、例えば50カットとなると、なかなか骨が折れるし、エラーも起こりやすい。さらには、カットAには、数多くテイクがあり、場合によっては、後処理用の合成素材も含まれていますので、混乱の極みです。本来的には写真選定や細部の把握に時間を使うべきなので、データ整理は効率的に短時間でやりたいところ。

これを解消するために、撮影時のフォルダ名の通し番号に、カットIDを加えておきます。「カット1はページCに掲載」なのであれば「1-C」フォルダ、「カット2はページAの2番目に掲載」であれば、「2-A2」フォルダという具合です。撮影現場でいちいちフォルダ名を指示するわけにもいきませんので、香盤表にカットIDを振っておくとスムーズです。香盤表を作るのは撮影プロデューサーであることが多いですから、事前にプロデューサーにお願いしておくといいでしょう。そして、撮影前に、データ取りまとめ係と、香盤表にあるカットIDをフォルダにつけていくルールを示し合わせましょう。

案件によっては、データ取りまとめ係と、デザイナーの間にレタッチャーが入る場合もあります。こういった何人もの手を渡るデータの場合、カットIDが共通認識として使え、さらに役立ちます。


香盤表の一例。撮影する順番で記載されているが、カットIDも併記されている。

常にフォトグラファのそばに

撮影現場の中心は、いうまでもなくフォトグラファです。フォトグラファのそばにディレクターがいますし、スタイリストもいます、要所要所でクライアントもチェックしにきます。絵作りの最も重要な話題はフォトグラファの周りで起きているのです。デザイナーはこの輪に参加しておくべきです。ディレクターとフォトグラファのやり取りに耳を傾けながら、OKテイクやKeepテイクを自分なりに頭に入れておくといいでしょう。OKテイクのファイル名をメモしておくのもいいですが、どちらかというと、OKの理由を理解しておくといいでしょう。レイアウトデザインに、撮影時に積み上げた狙いをスムーズに盛り込むことができます。

また、将来、自分が撮影ディレクションをする事を考えても、フォトグラファとディレクターのやり取りは、得るものがあるはずです。やや打算的ですが、フォトグラファのアシスタントと仲良くなれたりもします。彼も将来ピンで活躍する写真家になります。数年後、彼と一緒に絵作りすることになるかもしれません。若手同士、友好を深めておきましょう。

話を戻します。OKテイクにも色々あります。ディレクターのOKテイクと、フォトグラファが気に入ったテイクが違ったり。ディレクターとフォトグラファが意気投合して盛り上がっているにも関わらず、クライアントが妙に静かにしているなど(クライアントが物静かになったテイクは、後でひっくり返る可能性を秘めている・・汗)。その場のムード含めて覚えておくといいでしょう。

スタイリストのこだわりポイントを聞いておくのも大事です。「このシャツは、襟のディテールがかわいいんだよね」とか、「このコップ、ガラスのすけ具合絶妙なんだ」など、後々のデザイン工程で絵の力を更に高めるヒントが満載なのです。

加えて、レイアウトデザインに入った際に都合が悪くなりそうなことは、フォトグラファ、ディレクターに共有しておきましょう。「寄り過ぎでトリミングに不都合が出そう」「被写界深度が深くて、小さく掲載した時に説明的に見えてきそう」など。アートディレクターも注意を払っているポイントですが、デザイナーの視点も重要です。どしどし伝えていきましょう。

伝える時の心構えとして、何度も言う。これ鉄則です。発言したことが取り入れられなかったのは、却下されたのではなく、別のことに頭が行って、注意を払えなかったと思ってください。フォトグラファは幾つもの条件、リクエストを同時に考えているので、漏れることも多々あります。最低3回ぐらいは言うと構えておくといいかもしれません。(※暗黙の却下の可能性もあるので、その時は空気を読んで・・)

レスポンシブレイアウトの仕上がりがイメージ出来ているのはあなた

スクリーンメディアでは、既に定着しているレスポンシブレイアウト。閲覧環境によって写真のトリミングが変わったり、写真と文字要素の関係が変わるという概念は、頭で理解しているフォトグラファもいますが、感覚まで落ちている人はまだまだ少ないでしょう。写真技法としては、必要不可欠な要素(間も含む)で構成すべきという頭があるので、閲覧環境次第で、見えたり見えなかったりするスペースを作っておく(もっと乱暴に言うと、あってもなくても成立するスペースを作る)というのは、なかなか理解し難いようです。

ここはレスポンシブレイアウトを作るデザイナー本人の知見、助言が大事です。「もっと引いて、左右の余白を大きく。」理屈上では、視点が甘い写真になりやすく、フォトグラファには結構嫌がられる言葉なのですが、ディレクターと結託して繰り返し丁寧に伝えましょう。加えて、念には念を入れ、カラ舞台を撮っておいてもらいましょう。レイアウト時、「右端にあと100ピクセルほしい・・」なんてケースに役立ちます。

モデルの特徴を掴んでおこう

人物が絡む撮影の場合は、モデルの特徴をしっかり掴んでおきましょう。人の顔は、完全に左右対称の人はいないので、右向きの笑顔と左向きの印象が違うもの。右の笑顔は無邪気なかわいい感じがするけど、左の笑顔は大人っぽく美しいとか。はたまた、右はかわいいけど、左は意地悪そうとか、わざとらしいなんてこともあります。
フォトグラファはその辺りを加味して、ライティングを設計しています。(右向きで撮ったほうが良さそうなのて、カミテから照明を当てよう、など)つまり、右を撮ってみて、やっぱり左かな〜みたいな判断は、それなりに時間を使ったり、甘くなったりしがち。予め、コンポジやオーディションで、モデルの特徴を把握し、また、どの辺りに文字要素が入るのかなどのレイアウトデザインの都合も含めて、答えを持っておくといいでしょう。
その他、例えば今回のモデルは手のひらが大きい、瞳の色が緑掛かってきれい、耳の形がシャープ、腰が大きくて、正面から見るとセクシーだけど、下から煽ると太って見えるなどなど、良いポイントや、気になるポイントを把握しておくと、アングル決めや写真選定の際に役立ちます。また外国人の場合は、タトゥが入っているモデルも少なくありません。案件的にタトゥがOKかNGか、ディレクター、クライアントと協議しておくといいでしょう。想定していない消し込み作業などを減らせます。

楽しいお昼ごはん、いただきますの前に

楽しいお昼ごはんの時間も、まずは周りを見渡します。一見、体育会系のノリのように見えがちですが、食事に入る順番は香盤進行上でも大事です。クライアントがいたらクライアントから食事に入ってもらうのは当たり前として、フォトグラファ、照明さん、スタジオさんは、早めに食事に入ってもらえるように促しましょう。お昼休憩後、午後の撮影の準備で、最初に現場に戻るのはこの人達。少しでも早くお昼休憩に入ってもらえるように、「お先にどうぞ」と一声を掛けましょう。(スタジオさんは、慣例的になかなか先に食事に入ってくれないので、適度に進める程度が吉)


最近の撮影中のごはんは、ケータリングだったりすることも多く、日頃のお昼ごはんより華やかだったり・・・。揚げ物&肉類たっぷりのストレートなロケ弁も萌えるけど。

TWOTONEのデザイナー、松村優里。彼女ぐらい慣れてくると、ロケ先でいい感じの小道具を拾ってくる。(上の写真は、流木を拾ってきた様子)

冒頭でも触れたように、撮影現場は「主要関係者がその案件に対して時間を割き、一同に会している特異な時間・場所」です。揃っているからこそ判断が早い。一堂に会せる時間には限りがあって、それも相まって、目まぐるしいスピード感へつながります。
ひとりじっくりレイアウトデザインに向かい合っている時とは違う時間の流れです。
まずは、取っ掛かりを見つけて、じわじわと領域を広げていってもらえればと思います。